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ブックイベントに行ってみた!

ブックイベントに行ってみた!『ののの』刊行記念 太田靖久さん×上田岳弘さんトークイベント

 

『ののの』著者の太田靖久さん(左)と作家の上田岳弘さん(右)

〈イベント概要〉
『ののの』刊行記念 太田靖久さん×上田岳弘さんトークイベント
日時 2020年10月9日(金)18:00~19:30
会場 二子玉川 蔦屋家電
登壇者(敬称略) 太田靖久(作家、『ののの』著者)、上田岳弘(作家)
イベント詳細 https://store.tsite.jp/futakotamagawa/event/shop/15745-1641000905.html

 こんにちは。本が好き!レビュアーのタカラ~ムこと佐野隆広です。お久しぶりの「ブックイベントに行ってみた!」第6回は、二子玉川 蔦屋家電で開催された「『ののの』刊行記念 太田靖久さん×上田岳弘さんトークイベント」をレポートします。

 

デビューから10年目に刊行された太田靖久さんの初単行本『ののの』

書籍:ののの
(太田靖久 / 書肆汽水域)

 

予言された本

会場の二子玉川 蔦屋家電。イベントは、店頭とオンラインで同時開催された

おふたりの出会いは、上田さんが新潮新人賞を受賞したときの食事会でした。太田さんは、そのとき上田さんから「太田さんが見つかるのはデビューから10年後」と言われたそうで、「太田さんは、個性が強すぎてみんなよくわからない。10年後にはみんな気づくから、それまでは絶対に業界から消えないこと」と言われたと話します。今年、デビュー10年目にして『ののの』が刊行されたので、上田さんの予言は的中したことになります。

 

また、2014年に高橋弘希さんが受賞したときのエピソードも話してくれました。
「新橋で、門脇さん(門脇大祐さん)と5人(太田さん、上田さん、滝口悠生さん、門脇さん、高橋さん)いたんですけど、上田さんが店員さんに携帯で写真を撮ってとお願いしたんですよ。そのときに上田さんが『この中から数年後に芥川賞作家がでるから覚えておいた方がいいですよ』とおっしゃった。」(※括弧内は筆者注)

その後5人のうち3人(上田さん、滝口さん、高橋さん)が芥川賞を受賞したのですから、上田さんの予言はここでも的中したことになります。

 

影響しあうから一緒にいる

 

太田さんは、書店や作家仲間とのつながりを考えて『ODD ZINE』を企画編集しています。最新の『ODD ZINEvol.5』は、「『ののの』刊行記念号」となっていて、上田さんも「太田靖久論」を寄稿しました。制作にあたり、最初に声をかけた相手が上田さんで、「上田さんに断られたらZINEは作れなかった」と太田さんは言います。


『ODD ZINE Vol.5』取り扱い先はこちらから

 

3年違いで作家デビューしたおふたりですが、上田さんは「デビューが前後3年以内同士は影響し合うからお互いの作品のためにも一緒にいた方がいい」と思っていて、太田さんも「横の連帯は強くしたほうがいい」と言います。「かぜまち」(『ののの』収録作)の初出時には上田さんに読んでもらって、上田さんからは「白い壁のモチーフが未消化」とのコメントをもらったとのこと。作品に出てくる白い壁については、シリーズ物としての構想があるそうで、スピンオフ的な長編を書きたいが最初の構想から手つかずになっているそうです。

 

小説を真剣に書くことの面白さ


トークの中で、作家としての考え方、作家としての自分について、おふたりから印象深いコメントがありましたので紹介します。

上田さん:「文章を書いて世の中が少しでも良くなる。それをみんなが真剣にやっているのが面白くて好きなところ。新人賞にしても、2000人にひとりが受賞するというのは確率としては低い。そういう確率の中で延々と書き続けてデビューしてきた人たちが純文学作家として活動しているのは面白い。」

太田さん:「割にあわないことをやっているな、という思いはあるけど、自分の哲学や思想が端的に出ているのが小説なんだと思う。『ののの』は、あったことをなかったことにされるのが我慢ならないという気持ちで書いた。」

 

終わりに

上田さんは今でも、まだデビューしていないという意識を持つようにしていると言います。純文学作家の仕事は、いかに困難な場所で書き続けるかとだと言う上田さんは、デビューしていない状況が作家にとって一番困難な場所で、そのときの気持ちに基軸を置くことが創作する上で正しいように思う、と話していました。 イベントの最後に太田さんは、今後の展望について尋ねられ、「これからもコンスタントに書いていきたい」と話していました。当面は『ののの』のプロモーションに力を入れていくとのことですが、読者として新しい作品が発表されるのを待ちたいと思います。

 

『ののの展』の様子

会場となった二子玉川 蔦屋家電では、『ののの』の刊行を記念して「『ののの』展」も開催されていて、『ののの』や太田さんに関わるグッズが展示されていました(展示は10/14で終了)。太田さんが売り場に立つ日もあり、本やグッズを購入したお客様には、自ら発案した「あいうえお占い」で運勢を占ったりするサービスもありました。私も占ってもらいましたし、イベントでは、上田さんを占いました。

 

以上が今回のイベントレポートになります。書ききれなかったエピソードも含め、おふたりの関係が伝わってくるイベントでした。登壇された太田靖久さん、上田岳弘さん、書肆汽水域の北田博充さん、二子玉川 蔦屋家電スタッフの皆さん、どうもありがとうございました。

 

■参考
書肆汽水域 http://kisuiiki.com/
ブックマート川太郎 https://www.prank.tokyo/categories/2763236
二子玉川 蔦屋家電  https://store.tsite.jp/futakotamagawa/

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著者略歴

  1. 佐野隆広(タカラ~ム)

    本が好き!レビュアー(本が好き!レビュアー名:タカラ~ム)。はじめての海外文学フェアスタッフ。間借り本屋「タカラ~ムの本棚」店主
    11月から、はじめての海外文学vol.6がはじまりました。

    はじめての海外文学 公式サイト
    https://hajimetenokaigaibungaku.jimdofree.com/

    はじめての海外文学vol.6応援読書会(オンライン読書会)
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no395/index.html?latest=20

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