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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、世界一有名な犬を生み出した作家の評伝『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』

今月の1冊『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』(亜紀書房)

書籍:『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』
(デイヴィッド・マイケリス,古屋美登里 (翻訳) / 亜紀書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/283033/

 

選書理由

『スヌーピーミュージアム』が町田に移転オープン。先日遊びに行ってきたのですが、PEANUTSの漫画のみならず、作者にもフォーカスが当たっていて面白い展示ばかりでした。そんな経緯もあってPEANUTSの作者、チャールズ・シュルツの伝記に手を出してみました。

ブックレビュー

「世界一有名な犬」といえば、おそらくあなたの頭には白いフォルムに黒い耳を携えたキャラクターが浮かぶと思うけれども、彼の名前は漫画のタイトルになっていない。そう、世界一有名な犬「スヌーピー」の漫画のタイトルは、『PEANUTS』である。 私はむかしその事実を知って、「なぜピーナッツ……?」と首をかしげた。私が知る限り、チャーリー・ブラウンも、ルーシーも、ライナスも、もちろんスヌーピーも、「ピーナッツ」に関してどうこう言っている姿はなかったからだ。 本書には、なぜスヌーピーの漫画のタイトルが「ピーナッツ」だったのかがつづられている。当時のアメリカにおいて、「ピーナッツ」とは小さくてとるに足らないもの、というイメージが強かったそう。スヌーピーの漫画連載が新聞社で開始されるにあたり、「ただとるに足らない漫画」だと思った編集部は、「タイトルはピーナッツにしよう」という話をまとめたという。
なんという雑でかわいそうなタイトル……と唖然としてしまうけれど(しかもその後のスヌーピーの人気っぷりを知っている身としては)、案の定、作者シュルツはこのタイトルが大嫌いだったらしい。そんなエピソードも含めて、本書『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』は、作者シュルツと漫画『PEANUTS』がどのように関係しあっているかを綴る。いやしかしピーナッツの由来、あんまりだと思いませんか!? おそらく漫画を読んだことのある方ならわかると思うけれど、スヌーピーという一見のんびりした風貌のキャラクターからは想像できないくらい、漫画『PEANUTS』には、孤独とそれによる寂しさが通低音として響いている。登場人物は、犬と、子供だけなのに。それでも彼らは「なぜ僕は彼女に愛されないんだろう?」と呟いたりする。そして本書を読むと、それはほかならぬ作者の寂しさ、不安、そしてそのぽっかりと心に浮かぶ孤独を手放さないことによって漫画を描く才能を保ち続けようとした姿勢からきているものだとわかる。シュルツは精神的に不安定になった際、妻から精神科に行ってみることをすすめられても、「才能を剥ぎ取られるから嫌だ」と拒否したらしい。
本書には、伝記と一緒に、漫画もかなり数多く掲載されている。作家の伝記という形態をとるからそうなるのかもしれないけれど、彼の人生がいかに『PEANUTS』という漫画にうつしだされているかがわかる。たとえばスヌーピーという一見不思議な響きに聞こえる犬の名前の由来は、ノルウェイ語にあった。「スヌーピー」とは、ノルウェイ語で若い女の子を呼ぶ「Snuppa(スヌッパ)」をもじってできたそう。なぜノルウェイ語だったのかといえば、彼の、母親がノルウェイ系アメリカ人だったかららしい。……このエピソードを読むだけでも、彼の母親への愛情と、漫画にうつしだされる影が見えるだろう。
作家は、言いたくても言えないことがあるから、物語やキャラクターにしてそれを描く。
『PEANUTS』という世界的に有名な作品だって、それは、変わらないんだろう。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:A peanuts book featuring Snoopy (1)
(チャールズ・M・シュルツ, 谷川俊太郎(翻訳)/KADOKAWA)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/41763/

〈おすすめポイント〉
谷川俊太郎さんの訳が秀逸。大人になってから読むと、より作者の言いたかったことがわかるようになるかもしれません。私もちゃんと読みたいなーと思って買ってしまいましたよ。

書籍:ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック
(村上春樹 / 中央公論新社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/1260/

〈おすすめポイント〉
シュルツと同じくアメリカの作家フィッツジェラルドを、村上春樹が綴った。つくづくアメリカの作家はアメリカらしい病を抱えているよなあ。

 

Kaho's note ―日々のことなど

スヌーピー、今読むと小さい頃より面白く読めるかも。作家の伝記を読むと、作品を読み返したくなりますね。作家の伝記、私は読むのわりと好きです。作品の理解が深まるからというよりは、作品を描かざるをえない作家の人生そのものに興味があるから。

 

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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本が好き!2020年1月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)。

    Twitter>@m3_myk
    cakes>
    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
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    https://m3myk.hatenablog.com/

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