本とその周辺にある事柄・人をつなぐ

MENU

ブックイベントに行ってみた!

ブックイベントに行ってみた!トークイベント「翻訳家はどうやって本を読んでいる?」

翻訳家の都甲幸治さん(右)と三辺律子さん(左)。トークイベントは、オンライン配信で行われた

〈イベント概要〉
トークイベント「翻訳家はどうやって本を読んでいる?」
日時 2021年1月23日(土) 14:00~15:30
会場 Book&Cafe Bar BAGONE ※イベントはvimeoでオンライン配信
登壇者(敬称略)
都甲幸治(翻訳家、早稲田大学文学学術院教授)、三辺律子(英米文学翻訳家)
イベント詳細 https://translators.peatix.com/

こんにちは。本が好き!レビュアーのタカラ~ムこと佐野隆広です。「ブックイベントに行ってみた!」第8回は、2021年1月23日に渋谷の『Book&Cafe Bar BAGONE』からオンライン配信されたトークイベント「翻訳家はどうやって本を読んでいるか?」をレポートします。

 

翻訳の楽しさにハマった柴田先生のワークショップ

イベントは、三辺律子さんが都甲幸治さんにいろいろと質問をしていくスタイルで行われました。
まずは、都甲さんが柴田元幸さんのワークショップに参加していたという話からスタート。柴田さんがポール・オースターの最初の翻訳を出す少し前くらいのことで、メンバーには岸本佐知子さんや小山太一さんといった英米文学の翻訳家として現在一線で活躍している方々やフリッパーズ・ギターをやめたばかりの小沢健二さんもいたそうです。

 

「フリーディスカッションでいろいろと話ができたのが楽しかった」


ワークショップでは、作品の読み方を掘り下げたり、どういう手触りの訳がいいのか、どういう訳がかっこいいのかをみんなでディスカッションしていて、その経験が教える側になった今に通じているそうです。三辺さんも大学で翻訳を教えていて、「授業で生徒の訳文についてディスカッションするのは楽しい」と訳文を探求する楽しみについて話されていました。

 

『長くつ下のピッピ』など児童書から多くのことを学んだ幼少期

アストリッド・リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』(岩波少年文庫、他)や岩波書店、福音館書店から出ている児童書を読んで、いろいろなことを吸収していたという都甲さん。大人になって『長くつ下のピッピ』を読み返したら、面白いのと同時に、フェミニズムっぽいと感じたと話します。子どもの頃はわかっていないから、すごい人かっこいい人とだけ思っていたが、改めて考えるととてもメッセージ性が強い作品だと感じたそうです。

都甲さんは、三辺さんが訳した『ジャングル・ブック』(岩波少年文庫)を「翻訳で読んでいると思えないくらいドキドキして、次がどうなるのか気になってしまうくらい面白い」と絶賛。『ジャングル・ブック』は、人間の世界にも動物の世界にもうまくはまらない、能力はあるけど寂しくなってしまう子ががんばっていくという話で、ベースになる寂しさ感が重要なのだと言います。三辺さんは、キプリングの『少年キム』(岩波少年文庫)の翻訳も手がけていますが、訳しながら「キプリングは天才だ」と思っていたそうです。

 

三辺さんが翻訳を手掛けた『ジャングル・ブック』(岩波少年文庫)

書籍:ジャングル・ブック
(ラドヤード・キプリング,三辺律子(翻訳) / 岩波書店)

「BOOKMARK」はプロが忘れがちなところを手放さずにいる尊い存在

都甲さんは、三辺さんが金原瑞人さんと出しているフリーブックレット「BOOKMARK」の17号に巻頭エッセイを寄稿しています。2019年に書籍化された『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』(CCCメディアハウス)を読んで、面白かったかつまらなかったかの基準しかないところがすごいと感じたそうです。大学の勉強などで本を読むようになるとそういう基準から離れてしまい、プロになるとどんどん遠くなってしまう。「『BOOKMARK』は、プロが忘れがちなところを手放さずにいて尊いと思えた」。
文学作品でも、疎外感があるのだけど、どうにか探ってコミュニケーションをとっていこうとする話に惹かれると話す都甲さん。『ジャングル・ブック』では、ジャングルで人間がひとり必死に動物の言葉を覚えてなんとか相手にしてもらうけど大事なときに無視される。そういうところが共感できると話していました。

 

「BOOKMARK」は、「海外文学を紹介する場がほしい!」という想いから「読者と本が出合う場所」として創刊。年2回発行。全国の公共図書館・書店などで入手できる。

 

翻訳家自らが紹介する人気ブックレットが書籍化

書籍:翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK
(金原瑞人,三辺律子 / CCCメディアハウス)

視聴者からの質問コーナー

ここでおふたりのトークは終了。5分の休憩をはさんで視聴者からの質疑応答となりました。コメントで視聴者から届いた質問におふたりが回答してくれました。その中からいくつか抜粋してお届けします。


Q:自分が訳している作品を他の方も訳していたらその本を読みますか。読むとしたら読者として読みますか。自分の翻訳と比較して読んだりしますか。

都甲: そういう体験はまだないです。読者としてはスイッチを切って読んでいるので、普通に楽しんで読むと思います。

三辺: 『ジャングル・ブック』は、自分の訳が出た後に映画が公開されることになって、金原さんや田口俊樹さんの翻訳で刊行されましたが、怖くて読んでないです。同じキプリングの『少年キム』も、最近光文社古典新訳文庫から新訳(『キム』木村政則(翻訳))が出ましたが、おそろしくてまだ買ってません。

Q:制度や政治にはまらないアウトローについてどう思いますか。

都甲: はまる人はいないんじゃないかと最近思っています。普通こうでしょ、と思っていることもだいたいみんな自分は違うと思っているし、誰もが同じだけ苦しんでいて、ちゃんとできていないと考えている。自分はちゃんとできていないけど、他の人はできていると思っている人と、他の人もできていないと思っている人の2種類しかいないんじゃないかと思います。

Q:どのように読書の時間を確保していますか。

都甲: 大学の教員としてやらなければいけないことがたくさんあって、放っておくと読書の時間なんてないから無理にでも作らないと精神が安定しなくなります。いま目の前のことだけやっていても次につながらないし、心がカスカスになっていくような気がするので、気持ちが温かくなったり楽しいと思えるようなものと触れ合える時間を短時間でいいから持ち続けることが義務だと思ってやっています。どうやってというのはもう気合いですね(笑)

三辺: わたしも『本を読むのも仕事のうち』と言い訳して、翻訳の仕事を後回しにする罪悪感を減らしつつ読んでいます。お風呂の中で本を読むのが好きで、仕事とは関係ない好きなものを読もうと決めていますが、最近はそれも仕事に関係する本になってしまっていますね。スポーツクラブに通うようになったので、バイクを漕ぎながら読んだりもしますが、ジムのインストラクターの方に何を読んでいるのか聞かれて説明すると訝しげな顔で去っていかれたりして。先日は殺人ロボットの話を読んでいると言ったら、そんなの読んでるんですかと言われました(笑)

Q:2020年に読んだ中で面白かった本を教えてください。

都甲: マーガレット・アトウッドが好きなので『誓願』(早川書房)が面白かった。アクション映画みたいだと言う人もいるが、十代の女の子が抑圧的な帝国を倒すみたいな話は大好き。

 

都甲幸治さんおすすめの一冊

書籍:誓願
(マーガレット・アトウッド, 鴻巣友季子(翻訳) / 早川書房)

三辺: オルガ・トカルチュクの『プラヴィエクとそのほかの時代』(松籟社)は面白かった。ひと言で説明できない面白さがあります。
都甲: 『プラヴィエクとそのほかの時代』は、東欧のガルシア・マルケスのような感じで、ポーランドの2つの名家が代々にわたってにらみ合いながら、ナチスドイツの時代、ソヴィエトの時代を過ごしながら日常を送っていく。巨大な歴史とミクロな日常の風景が結びつきながら動いていく。ポーランド文学のレベルの高さを知りました。

 

三辺律子さんおすすめの一冊

書籍:プラヴィエクとそのほかの時代
(オルガ・トカルチュク,小椋彩 (翻訳) / 松籟社)

 

終わりに

以上、トークイベント「翻訳家はどうやって本を読んでいる?」のレポートをお送りしました。緊急事態宣言が発出されてオンライン配信のみとなってしまいましたが、視聴者からの質問もたくさん寄せられ、おふたりの話もとても楽しく、盛り上がりました。 なお、写真は主催の「Book&Cafe Bar BAGONE」からご提供いただきました。登壇された都甲幸治さん、三辺律子さん、Book&Cafe Bar BAGONEスタッフの皆さん、楽しいイベントをどうもありがとうございました。

(写真提供:Book&Cafe Bar BAGONE)

■参考
Book&Cafe Bar BAGONE https://bagone.jp/
「BOOKMARK」ホームページ https://kanehara.jp/bookmark

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 佐野隆広(タカラ~ム)

    本が好き!レビュアー(本が好き!レビュアー名:タカラ~ム)。はじめての海外文学フェアスタッフ。間借り本屋「タカラ~ムの本棚」店主
    11月から、はじめての海外文学vol.6がはじまりました。

    はじめての海外文学 公式サイト
    https://hajimetenokaigaibungaku.jimdofree.com/

    はじめての海外文学vol.6応援読書会(オンライン読書会)
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no395/index.html?latest=20

閉じる