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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、「本」がお宝になっている、ブック・コレクターの世界『「グレート・ギャツビー」を追え』(中央公論新社)

今月の1冊『「グレート・ギャツビー」を追え』(中央公論新社)

書籍:『「グレート・ギャツビー」を追え』
(ジョン・グリシャム, 村上春樹(翻訳) / 中央公論新社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/292769/

 

選書理由

フィッツジェラルドファンの人間からすると、『「グレート・ギャッツビー」を追え』というタイトルだけでもうかなり気になってしまった……。しかし読んでみるとフィッツジェラルド読者でなくとも面白く読める作品でした!

ブックレビュー

高額なお宝が盗まれる物語は数あれど、今回紹介する小説の珍しいところは、「本」がお宝であること。
基本的に本ってそんなに高い値段をつけられない。高い本でも百貨店で売られているブランドバッグよりも高額にはならない。……と、本書を読めばそんな思い込みを捨てざるをえない。 そう、この物語で扱われるのは、初版本のような稀覯本である。
ミステリの舞台は、アメリカ有数の独立系書店。その地下には、ヴァージニア・ウルフ、サリンジャーの初版本、そしてフィッツジェラルドの貴重な原稿が眠っていたのだ!
本書はアメリカの書店を舞台にしたミステリなのだけど、稀覯本の蒐集の世界や、書店ビジネスの裏側の蘊蓄がたくさん語られることが大きな魅力である。
小説『「グレート・ギャッツビー」を追え』の主人公は売れない作家・マーサー。彼女はデビュー作で話題を呼んだものの、最近はなかなか思うような作品を書けていない。
そして彼女のもとに、ある依頼が届く。
プリンストン大学の地下に眠っていた、フィッツジェラルドの直筆原稿が盗まれた事件。その原稿を現在隠している可能性があるのは、アメリカの有名書店のオーナー・ブルース。彼のもとへ、マーサーがスパイとして潜り込んでくれないか、と言われるのだ。
女性作家がスパイになったり、カリスマ書店主に犯人の疑惑があったりするのもわくわくするころなのだけど、冒頭にも言った通り、ブルースが語るブックコレクターの世界や書店の裏側がなにより面白い。本が好きな人だったら、アメリカの作家エージェントのシステムや、書店がどうやって作家を売り出しているかなど、興味深く思うのではないだろうか。
ブルースが語る、売れない本の条件や、作家のサイン会を開く時の話なんか、「へえー」と本筋のミステリから外れて読みふけってしまう。ちなみに面白くない本は、プロローグがよくわからない場面から始まる、という話を読んで笑ってしまった。たしかに、プロローグだけやたら思わせぶりな本ってあるよね。こういうところはアメリカも日本も変わらないな、という心地になる。
そしてさらに、それらを語る書店長・ブルースのキャラクターが魅力的。村上春樹の訳がぴったりと合うような、男前のオーナーになっている。彼とマーサーの、スパイ物語らしい色っぽいやりとりも、作品のゴージャスさを増している。
「本」がお宝になっている、ブック・コレクターの世界。
本を愛する方にはぜひ一度読んでみてほしいと思える小説だった。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:夜はやさし
(F・スコット・フィッツジェラルド, 森 慎一郎 (翻訳)/ 作品社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/261323/

〈おすすめポイント〉せっかくなので私の好きなフィッツジェラルド作品を。これ、作品そのものもすごくいいし、訳もものすごくいいし、解説もさらにいいんですよ。三重に良い。『グレート・ギャッツビー』ほど派手ではない小説なんですが、こっちのほうがアメリカならではの悲しみとか都市の孤独みたいな、フィッツジェラルドっぽいテーマが味わえる気がして、すごく好きな小説です。

書籍:フィツジェラルド短編集
(F.S.フィツジェラルド, 野崎孝 (翻訳) / 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/12983/

〈おすすめポイント〉
フィッツジェラルドの後期の短編集を集めた本。フィッツジェラルドなりのアメリカ論みたいなものも登場し、アメリカのセレブ特有の悩みを描く小説もおさめられている。1920年代のアメリカそのものを知りたい人にも。

 

Kaho's note ―日々のことなど

あけましておめでとうございます! 今年もどうぞよろしくお願いいたします! と、この連載で新年のあいさつをするのももはや2度目。ありがたい限りです。実は私の連載のなかでもっとも長い間お世話になっている365bookdays。今年もたくさんの面白い本を紹介できたらいいなーと心から思っております。今年も読んでもらえたら嬉しいです、読んでもらえるような書評を書けるように頑張ります。

 

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
月間ランキングはこちらから
本が好き!2020年12月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)。

    Twitter>@m3_myk
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    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
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