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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊はイギリス文学史上に残るヒロイン、C・ブロンテの『ジェーン・エア』(ちくま文庫)!

今月の1冊『ジェーン・エア』

 

書籍:ジェーン・エア(上)』
(シャーロット・ブロンテ(著),大久保康雄 (翻訳)/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/80261/

書籍:ジェーン・エア(下)』
(シャーロット・ブロンテ(著),大久保康雄 (翻訳)/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/80262/

 

選書理由

こんな物語読んだことない。と、この物語どこかで知ってる。が、両立する小説だと思っています。読んだことのない方は一度読んでみてほしい、イギリス文学の傑作小説です。

ブックレビュー

ジェーン・エア。
その名前を聞く時、私はなんともいえず切ないような懐かしいような、きゅんと胸がしめつけられるような気持ちになる。
あまりしゃべったことはないけれど、どこかで気になっていた昔のクラスメイトを思い出すような、そんな気分になるのだ。

『ジェーン・エア』という小説は19世紀のイギリスで生まれた作品だ。
主人公の名前はジェーン・エア。彼女の人生を綴った小説なのだけど、この小説の面白いところは、まず、ジェーン・エアがそんなに美しくない、と繰り返し綴られているところにある。
美人じゃない。でも頭はいい。そして、男の人に屈するなんて嫌だ。
そんな、あまり一般的ではない、だからこそ印象に残る――実際英文学史に残るヒロインなのだけど――主人公が、彼女なのだ。

物語の主人公は美人だと、だれが決めたのだろう? と思ったことのある人はいるだろう。
なんとなく主人公といえば、美人風で、そして男性に愛されて幸せになる。そんな「なんとなく」の概念を、ジェーン・エアは打ち破る。
孤児として生まれるも、そのことに甘んじずに、自ら勉強する。家庭教師になって、手に職をつける。
恋をすれば、自分から彼に好きだと告げる。彼女は、運命を待たないヒロインなのだ。

だけどジェーン・エアという小説のいいなと思うところは、彼女が強いばかりのヒロインでもないところだ。彼女はつねに孤独に打ち震える。愛する人ができても、「そんなことある!?」と泣きたくなるような展開に身を砕かれる。
孤独で、なんで私ばかりがひとりなのだろう、と、彼女はいつも泣いている(ように、私には見える)。でもこの小説は、その理由をちゃんと教えてくれる。

「するとおまえは、なにかひそやかな希望でもあったのかえ、幸せな未来を囁くものがいたのかえ、おまえを元気づけ、心を浮き立たせるものが?」
「そんなものはないわ。せいぜいわたしの希望といえば、いつか小さな家を借りて学校を開きたい、そのための資金をお給料のなかから蓄えるぐらいのことね」
(『ジェイン・エア』上p447-8、C・ブロンテ、小野芙佐訳、光文社古典新訳文庫)


ジェーン・エアは、なにがあっても「よりよく生きたい、ちゃんと生きたい」と願っているのだ。
恋人がどんな存在であっても、自分が孤児出身であっても、いろんなところで自分の思いがうまく結実しなくても。それでも、よりよく生きたい、と願う。
そんな人だからこそ、孤独なのだと思う。安易に群れない、誰かに同調しない。孤独なのは、だからこそ、だ。

この小説をたくさんの人が愛する理由が分かる。私も、ジェーン・エアのように生きられるかと問われればちょっと立ち竦んでしまうけど、それでも彼女のことを忘れることはない。
たくさんの、よりよく生きたいけれどそれでも孤独にふるえる人を、今も昔もすくってくれる小説なんだと思う。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:高慢と偏見 上(ちくま文庫)
(ジェイン・オースティン (著),中野 康司(翻訳)/筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/54889/

 

書籍:高慢と偏見 下(ちくま文庫)
(ジェイン・オースティン (著),中野 康司(翻訳)/筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/35434/

〈おすすめポイント〉
ジェーン・エアと同時期に綴られた結婚をめぐる物語。ジェーン・エアと同じ時代なのに、世界の見方がまったく違ってて、やっぱり本はいろんな面白さがあるなあ、と感じさせてくれる一冊です。

 

書籍:嵐が丘(上) (光文社古典新訳文庫)
( エミリー・ブロンテ(著),小野寺健 (翻訳) / 光文社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/280021/

 

書籍:嵐が丘(下) (光文社古典新訳文庫)
( エミリー・ブロンテ(著),小野寺健 (翻訳) / 光文社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/30923/

〈おすすめポイント〉
こちらも同時代の小説。作者がジェーン・エアの作者と姉妹なんですよね。でもやっぱりジェーン・エアとも高慢と偏見ともちがう世界観。ぜひ三作品読んで、自分にはどれが合うかな? と考えてみてほしいです。

 

Kaho's note ―日々のことなど

新刊のイベントがあったり、会社で本配属になったりと、急にばたばたし始めた7月です(これまでは実は新卒で研修期間だったのです~)。忙しいのは仕事があるってことでありがたいことだ……と私の好きなアイドル(NMB48の吉田朱里さんという女の子)が言ってたので、その精神を胸に頑張りたいと思います。忙しいのは大丈夫なんですが、どうにか本を読む時間を確保したいもんですね!

 

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
月間ランキングはこちらから
本が好き!2019年6月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 (14歳の世渡り術) 』(河出書房新社)。2023年5月に『名場面でわかる 刺さる小説の技術』(中央公論社)、6月に『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行。

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    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
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    https://m3myk.hatenablog.com/

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