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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、キリンに魅せられた研究者の一途さに魅了される学問エッセイ『キリン解剖記』!

今月の1冊『キリン解剖記』

書籍:キリン解剖記』
(郡司芽久 / ナツメ社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/279910/

 

選書理由

キリンが好きだから、キリンの解剖を生業にする研究者になった。そんな真っ直ぐな本があると聞いて、すぐに興味を持った。キリンの首はどこまであるのか? そんなテーマにたどり着くまでの道のりに魅了される本。

ブックレビュー

し、嫉妬するくらいに素直。
というのが本書への最初の感想だ。
私は自分が性格のひねくれた人間なので、文学研究などという人間性が捻じ曲がっていないとできない学問を選び、大学院まで学んだ過去があるのだけど(語ると長くなるので詳細については省略するけれど、文学研究とは畢竟、斜め上から人間について書いた文章を斜め上から考察する学問なので、捻じ曲がった人間が多いのである)。まあ、世の中には適材適所というものがありますよね。
しかし世の中には、この本の作者のように、ピュアに、まっすぐに、素直に、学問や研究対象に向かっている人間というのもいるもんらしい。いやはや。憧れるやら、眩しいやら。すごいなぁ、と分野の違う人間としては目を細めながら読んだ。

 本書は日本で最も「キリンの解剖をしている」という、新進気鋭の若手キリン研究者による学問エッセイである。
彼女がどのようにしてキリンの研究を志したのか、キリンの研究で発見をするに至るまで苦労はどのような点にあるのか、そもそも研究テーマはどうやって見つけるのか……。 研究者なら一度は悩むような苦悩(たとえばぴんとくる研究テーマが見つからないこと、自分のやりたいことにぴったりな研究室が見つからないこと、元旦もクリスマスもほとんどないに等しいこと、とかね)も描かれているし、それに加えて「キリンの解剖」という特殊な専門分野において何が大変だったのか(たとえば研究室選び、筋肉の構造に対する未知、キリンという大きな遺体の輸送……)が綴られている。
しかしその奮闘のなかで、作者は、ずっと自らに課した問いへ向き合い続け、解剖を続ける。その姿は、本当に驚くほどに素直というか真っ直ぐで、ちょっとその姿勢そのものにきゅんとしてしまう。

私の見てきた範囲では、という話なのだけど、理系の研究者という人種はかなりピュアというか人間的に真っ直ぐなんだなぁ、と思う方が多い。(文系の場合は……いや長くなるので語らないようにしとく)。
そこに研究対象があり、ただ実験と観察を繰り返し、そして見つける自分だけの発見。それを繰り返し続けて一生を終えられるというのは、それだけでもう真っ直ぐさがちょっと普通の人と違う。
だけど、何か新しいことを見つけることは、ただそこに向き合い続けた素直さからしか生まれない時もある。
余計なことは考えず、まず向き合う。それを続けることがどれほど難しいことか、と思うけれど、本書を読んでいると、それを難しいと思わないことこそがひとつの才能なのだな、とも思う。

 キリンの骨の構造や筋肉の知識をつける本としてもとても面白い(しかもわかりやすい!)けれど、それ以上に、作者のピュアな真っ直ぐさを読むこともまた、本書の楽しみ方ではないかな、と思う。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:バッタを倒しにアフリカへ
(前野ウルド浩太郎 / 光文社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/249277/

 

〈おすすめポイント〉
『キリン解剖記』の場合はキリンへのまっすぐな情熱が読みどころだったけれど、こちらは「バッタ」へのまっすぐな冒険心こそが読みどころだと思う。理系の研究者による爆笑学問エッセイ。研究はいつでも楽しく、大変です。

 

書籍:居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書
(東畑開人 / 医学書院)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/280907/

 

〈おすすめポイント〉
こちらは文系研究者(専門は臨床心理学)による「ケアとはなにか?」を問う学問エッセイ。人間は、どうして「いる」だけなのが難しいのだろう? キリンの解剖も面白いけれど、人間の精神の解剖も、わからないから、おもしろい。

 

Kaho's note ―日々のことなど

夏休みは高知(地元)に帰ったのですが、その前に京都へ寄っていきました。大学時代を過ごした場所(ていうかこないだまで過ごしていた場所)です。台風が直撃した京都は、なかなか涼しくて快適でした。久しぶりに京都へ帰ってみたら、もはや東京生活のほうが夢だったのかな? 私はなぜ京都に明日もいないのか? と不思議な気分になりました。それくらい自分の場所になってたんですね。文系の研究も楽しいからみんな知ってあげてくださいね!! 理系ばっかり注目したげないで!!(本音)

 

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
月間ランキングはこちらから
本が好き!2019年7月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)。

    Twitter>@m3_myk
    cakes>
    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
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    https://m3myk.hatenablog.com/

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