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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、明治時代の物語のカオスを味わえる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 』、通称「まいボコ」!

今月の1冊『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 』

書籍:「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』

(山下泰平/ 柏書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/279439/

 

選書理由

『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 』。長い。長すぎる。長いタイトルである。が、しかしこの長いタイトルだからこそ、「えっ、そんな小説が明治時代にあったの?」と興味を惹かれてしまったのである。

ブックレビュー

通称、「まいボコ」。そんな略称で呼ばれる本書、正式なタイトルは『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 』である。うーん、長い。しかしタイトルをしっかり読んでみると、そもそも明治時代の小説にアフリカ人ってでてくるの? 舞姫の二次創作ってこと? ていうか「小説の世界」ってどういうこと? など、たくさんの疑問が湧いてくる。ばっちりタイトルに釣られてしまった。あぐあぐ。
明治時代、娯楽小説が大量に生み出された。しかも書き手は「プロ」だけではなく、とりあえずなにかを書きたい、売りたい、そんじょそこらの民衆たち。そこで大量かつ多様に生まれた作品たちを、「まいボコ」は「講談速記本」と「犯罪実録」と「最初期娯楽小説」に分けて解説してくれる。まるで国立国会図書館の明治時代の棚へワープさせられたかのような感覚になりつつ、読者は明治時代の物語のカオスを味わう。
私がいちばん面白いな、と思ったのは、そもそも本書で取り扱っている明治20年代という時代が、日本の識字率がぐっと向上した時代だったこと、そしてそこから読書人口が増加し、娯楽小説が生まれていった過程だ。
現代の私たちから見たらゲラゲラ笑ってしまうような、それこそ「舞姫の主人公を殴る」ような有象無象の物語が生まれた明治時代。私の知っていた明治時代なんて、たとえば大河ドラマだったり朝ドラだったり歴史小説だったり、そもそもかなり「ご立派な部分」の明治時代だったわけである。たしかに歴史の教科書に載るような政治的側面や、夏目漱石の小説で綴られているようなエリートたちの生活も明治時代の一部である。だけど考えてみれば、実際に日本の大部分を占める民衆が過ごしていたのは、きっともっと秩序もなく、整っていなくて、だけど時代の空気ばかりが先行するような時期だったはずである。少なくとも、「まいボコ」を読めば、民衆が吸っていた明治時代の空気が少し、わかる。
今の時代に住む大半の人々が、歴史の教科書に名は残らないが時代の空気をつくる一部であることを考えると、明治時代だって同じだったはずだ。教科書に残らない時代の空気のかけらを、こうして、小説というメディアを通して知ることができる――なんてエキサイティングなんだろう、と思う。
玉石混合、大量の娯楽作品。たとえばエリートがでてきたら人気作品になるとか、展開が詰まってきたらSFやらバイオレンスやらが入るとか、「現代も同じやん!」と爆笑してしまいそうな作品たち。だけどそのなかに、当時生きていた人々の吸っていた空気が、たしかに内包されている。
文化は、人々が吸っていた空気そのものだ。玉石混淆だからこそ、文化は紐解かれる価値があるんだろう。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:英語教師 夏目漱石
(川島幸希/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/283884/

 

〈おすすめポイント〉
実は英語教師としてエリートだった漱石の「英語の授業」を紐解いた一冊。教科書に載っていない歴史の一側面を、ぜひ。

 

書籍:樋口一葉日記・書簡集
(樋口一葉 / 筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/91560/

 

〈おすすめポイント〉
歴史の教科書に載っている人だけど誤解されてそうな著名人の代表格・樋口一葉。彼女も働く女性のひとりだったし、愚痴も恋愛話もあるただの女の子だったのだ。

 

Kaho's note ―日々のことなど

いきなり寒くなってきてびっくりしてます! 最近、蚤の市に行って、ヴィンテージの食器を見る楽しさに気づいてしまいました……。新しい沼を知ってしまった。おそろしいです。食器って、見るのも楽しいし使うのも楽しい、というのがいいですよね。よくインターネットで食器を見てにやにやしてます。

 

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
月間ランキングはこちらから
本が好き!2019年10月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)。

    Twitter>@m3_myk
    cakes>
    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
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    https://m3myk.hatenablog.com/

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