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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、女の子の孤独に寄り添い、あたたかく照らす吉本ばななの代表作『キッチン』

今月の1冊『キッチン』

書籍:キッチン』
(吉本ばなな / 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/205474/

 

選書理由

「台所」から始まる、吉本ばななの代表作。悲しく、美しく、孤独を描いた作品。私も以前から大好きな小説です。

ブックレビュー

少女の孤独と、食べることは、吉本ばなな作品における二大テーマだと言ってよいだろう。
この本のあとがきには、吉本ばなな自身が友人に「吉本のあの小説で、この世の女の子のマイナー性が一気に花開いて、表に出て来ちゃったんだよな」(「そののちのこと」p196『キッチン』新潮文庫より)と言われた、とある。私はその当時の空気感は知らないけれど、さもありなん、と頷く。だってこの作品くらい、この世の女の子の孤独を丁寧に描いてくれた日本の小説ってないんだもの。
男の子にも孤独というものはあるのだろうけれど、女の子の、とくに十代の女の子のひりひりした孤独って何だったんだろう、と私はたまに考える。自分が中学生、高校生だった時、教室に渦巻いていた、ひりひりとした緊張感のある孤独たち。もう私は二十五だし、もうそろそろ同世代は「女の子」から卒業する年代だから、あの頃見ていた孤独とはちがうものを皆まとっているように感じる。だけど『キッチン』を読むと思い出すのだ。あの頃、十代だった頃、同世代の女の子が抱え込んでいた、痛いほどの孤独と、なんらかのかなしみを。
主人公のみかげは、死のすぐ近くにいる。彼女のまわりで起こる他人の死から、どう距離感をとればいいのかわからないまま、日常を過ごす。そのなかで新しい同居人と出会い、そのまま過ごしてはいくのだけれど、それにしても、ひょい、と死の向こう側に行ってしまいそうなあやうさで日々を過ごす。彼女は台所が好きだ、と言うけれども、それは自分のなかのうまく飼い慣らせない死との距離感を、「食べ物をつくる」ことによって紛らわせているように見える。
読むと十代の女の子たちの孤独をふいに思い出すのは、この、自分の身体と、生きることや死ぬことの距離感がうまくつかめないことそのものが『キッチン』のテーマだからなのだろう。つまり、十代の女の子の孤独というのは、そもそも他人とは共有できない、自分の身体と精神の違和感に宿っている。自分の身体が、自分が息をしたり思考したり感じたりすることと、うまく合致している気がしない。どこかでずれているような気がする。だけどそのずれを解消してくれるものはこの世界のどこにもない。家族も、友人も、恋人も、なにかずれて見える。何かの目標に向かって生きればいいと言われるかもしれないけれど、そう精神が向かっても身体が追いつかない。――キッチンは、この、十代の女の子の、身体と精神のズレに、「死」という交差点を持ち出す。
「本当に疲れ果てた時、私はよくうっとりと思う。いつか死ぬ時がきたら、台所で息絶えたい」(『キッチン』新潮文庫p9)
みかげはそう述べる。これを思春期の妄想だ、女の子のよく言うことばだ、と大人は笑うだろうか。だけど私は読むたび思い出す。十代のころ、ほんとうに死ぬことが近しかったときとか自分の身体がちがうものに見えたときとか感じることを放棄したくなったときがそこらじゅうに存在していた、わけもなく孤独だった、女の子たちのことを。
きっと今だって台所を必要とする女の子がいるから、『キッチン』は読まれ続ける。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:とかげ
(吉本ばなな/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/55030/

 

〈おすすめポイント〉
吉本ばなな入門にまず読んでほしい小説。『キッチン』もですが、吉本ばななはほんとうに少女の一人がたりで精神世界を語る小説、というジャンルを切り開いた作家だなと。

 

書籍:どんぐり姉妹
(よしもとばなな / 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/282783/

 

〈おすすめポイント〉
こちらは姉妹の話なんですが、吉本ばななの家族像が見えて興味深い作品。『キッチン』にも見えるとおり、吉本ばななが最も突き詰めてる関係性って、恋愛じゃなくて家族なんですよね、たぶん。

 

Kaho's note ―日々のことなど

先日、連休を使って上海に行ってきました。本屋へ行くと、日本の小説もたくさん並んでました(面で置かれててすごかった)。東野圭吾さんや村上春樹さんが大人気、吉本ばななさんの小説もありました~! 海外へ行くと、本屋に行きたくなるのですが(いや日本でも行ってるんですけどね)、国によって装丁や本の作りがちがうのを見るのが楽しいのです。中国は、海外古典文学の装丁がかっこよかったな~!

 

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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本が好き!2019年9月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)。

    Twitter>@m3_myk
    cakes>
    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
    Blog>
    https://m3myk.hatenablog.com/

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